副作用の少ない糖尿病薬や抗がん剤の開発に結びつく酵素の立体構造を解明

  研究成果のポイント

糖尿病薬であるDPP4阻害薬のオフターゲットであり、炎症性細胞死に関与するDPP8、DPP9の類縁酵素の立体構造を高分解能で決定しました。

 

概要

経口糖尿病薬としてヒトDPP4を分子標的とするグリプチン類の処方機会が急増しています。DPP4の類縁酵素のヒトDPP8/9は、オフターゲット効果によりグリプチン類等の阻害薬で阻害され、副作用発現を引き起こすことから、DPP8/9の立体構造解明が待たれていました。また、DPP8/9の阻害が炎症性カスパーゼ1の活性化を引き起こし、炎症性細胞死の一種であるパイロトーシスを引き起こすメカニズムも近年明らかになってきました。しかしながら、ヒトDPP8/9がどのようにカスパーゼ1の不活性型前駆体であるプロカスパーゼを活性化するのか明らかになっていません。

今回、岩手医科大学薬学部の阪本泰光准教授、昭和大学薬学部の田中信忠准教授、長岡技術科学大学の小笠原渉教授らの研究グループは、ヒトDPP8/9の類縁酵素の立体構造を高分解能で明らかにしました。ヒトDPP8/9の類縁酵素の立体構造は、副作用の少ない糖尿病薬や抗がん剤の開発、炎症性細胞死のメカニズム解明に役立つと考えられます。

なお、本研究成果は2018年2月9日19時(英国時間10時)に

Scientific Reports (Springer Nature)に掲載されます。

https://www.nature.com/articles/s41598-018-21056-y

 

右図:

この研究成果を応用する際のイメージ

 

 

 

 

 

 

研究背景

ペプチダーゼはペプチド結合の加水分解を触媒する酵素であり、自然界に広く存在し生物の様々な機能に関与することが知られています。本研究対象であるジペプチジルアミノペプチダーゼ(Dipeptidyl aminopeptidase; DPPもしくはDAP; EC 3.4.14)は、主に基質であるオリゴペプチドのN末端から2番目のアミノ酸残基を認識し、ジペプチドを産生する酵素です。

ヒトDPP4は、血糖依存的にインスリン分泌を促進するグルカゴン様ペプチド1などのインクレチンの不活性化に関与しています。このことから、DPP4の作用を妨げる化合物は、インスリン分泌を持続させ、2型糖尿病治療薬として使われています。その一方で、ヒトはDPP8/9といったDPP4によく似た構造をもつDPPを持ち、それらの阻害は薬の副作用の原因のひとつとなっていることが知られています。

微生物DPPは、歯周病原因菌であるPorphyromonas gingivalisや多剤耐性菌として知られるStenotrophomonas maltophiliaなど、タンパク質やペプチドを栄養源とする糖非発酵グラム陰性細菌(Non-Fermenting Gram-Negative Rods: NFGNR)に存在し、ペリプラズム内においてオリゴペプチドからジペプチドを産生します。産生されたジペプチドは、オリゴペプチド輸送体により、アミノ酸単体よりも優先的に細菌内に取り込まれ、栄養素や酵素や生体内器官の原料として用いられます。このことから、微生物DPPはNFGNRの生育に非常に重要な酵素であると考えられます。

これまでに、本研究対象のPseudoxanthomonas mexicana 由来 DAP IVとその近縁のStenotrophomonas maltophilia 由来DPP4の化合物の結合していない構造が2008年に決定されていたものの、化合物の結合している構造は解かれていませんでした。化合物の結合した構造では、化合物の結合していない構造では見えていなかった20アミノ酸残基ほどの領域が、αヘリックスという二次構造をとり、基質の認識に重要な役目をしていることがわかりました。また、微生物DPP4は、ヒトDPP4に類縁の酵素と考えられていましたが、今回明らかにした上図の二次構造を指標にして、他のヒトDPPや微生物DPPなどと比較したところ、どちらかというとヒトDPP8/9に類似していることもわかりました。

本研究は、DPP8/9を阻害せずDPP4を選択的に阻害する副作用の少ない糖尿病薬、DPP8/9を選択的に阻害することで抗腫瘍効果を有する薬剤および微生物DPP4を選択的に阻害するような抗菌薬の開発への貢献が期待されます。

ヒト DPP8/9 と微生物 DPP4 の類似性を示す系統樹

 

論文情報

論文名     Crystal structures of a bacterial dipeptidyl peptidase IV reveal a unique substrate recognition mechanism distinct from that utilised by mammalian orthologues.

 

著者名     六本木沙織1、鈴木義之2、館岡千佳1、藤本真友1、森澤さおり1、飯塚一平1

中村彰宏2、本間宣之2、志田洋介2、小笠原渉2、田中信忠3、阪本泰光1、野中孝昌1

(1岩手医科大学薬学部、2長岡技術科学大学、3昭和大学薬学部/分子分析センター)

 

雑誌名 Scientific Reports サイエンティフィック リポーツ (Springer Nature)

DOI doi:10.1038/s41598-018-21056-y

http://www.nature.com/articles/s41598-018-21056-y

オンライン公表日時 2018年2月9日(金)(英国:10時、日本:19時)

 

問い合わせ先

岩手医科大学薬学部構造生物薬学講座    准教授  阪本 泰光 (さかもと やすみつ)

大学院生 六本木 沙織(ろっぽんぎ さおり)

 

電話 019-651-5111 メール sakamoto@stbio.org(阪本)

 

昭和大学薬学部/分子分析センター      准教授  田中 信忠 (たなか のぶただ)

電話 03-3784-8063 メール ntanaka@pharm.showa-u.ac.jp

 

長岡技術科学大学生物資源工学研究室    教 授  小笠原 渉 (おがさわら わたる)

研究員  鈴木 義之 (すずき よしゆき)

電話 0258-47-9429

メール owataru@vos.nagaokaut.ac.jp(小笠原) yoshis@vos.nagaokaut.ac.jp(鈴木)

 

PmDAP IV結晶の回折強度データ収集は、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー (2011G090, 2013G138, 2017G162)と大型放射光施設SPring-8大阪大学蛋白質研究所生体超分子複合体構造解析ビームライン(2013A6822, 2013B6822, 2014A6924, 2014B6924, 2015A6521, 2015B6521, 2016B6620, 2017A6721, 2017B6721)で行われました。

 

本研究は、長井記念薬学研究奨励支援、科学研究費補助金(17H03790, 16H04902, 16K08322, 25462872)、私立大学戦略的研究基盤形成事業および創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業(PDIS)、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)、大阪大学蛋白質研究所共同研究員制度(超分子構造解析学研究室 CR1405, CR1505, CR1605, CR1705)、武田科学振興財団薬学研究奨励、JAXA 高品質タンパク質結晶生成実験の支援により実施されました。

 

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