2018年11月16日
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スポット薬学講座 No. 12 生物薬学講座機能生化学分野

骨代謝にはたらくプロトンポンプ

~プロトンポンプを標的とした創薬を目指して~

 

生物薬学講座機能生化学分野 教授 中西 真弓

 薬は、標的とする特定の生体分子に作用することで効果を表します。創薬を考えるとき、どの生体分子を標的とするか、その見極めが重要です。最近、当分野では、液胞型プロトンポンプATPase(V-ATPase)が破骨細胞で二重の機能を果たしていることを発見しました。骨代謝異常症の新規治療法の開発に向けて、V-ATPaseが良い標的になるのではないかと期待しています。
破骨細胞は複数の前駆細胞が融合した多核の細胞で、分泌リソソームと呼ばれる機構を介して骨を分解・吸収します。骨吸収は、骨のリモデリングや骨密度の維持に役立ちますが、行き過ぎれば骨粗鬆症を発症します。リソソームは、不要物を消化する細胞内小器官で、多くの場合は細胞の中に留まっていますが、破骨細胞では細胞膜へ向かって移動し、細胞膜と融合することでリソソーム酵素を細胞外へ放出します。
V-ATPaseは、ATPの加水分解で得られるエネルギーを使って膜を介してプロトン(水素イオン)を輸送します。局在する細胞内小器官や細胞により構造が少しずつ異なっています。以前、我々は、破骨細胞には特別な構造のV-ATPaseが存在していることを示しました。分泌リソソームにより、この特別なV-ATPaseが細胞膜へ輸送され、リソソーム酵素がはたらきやすい酸性の環境を形成します。さらに、V-ATPaseの2つ目の役割として、分泌リソソームが細胞膜に向かって移動するときにも機能していることを見出しました。通常は移動しないリソソームが外向きに移動するためには、多くの調節因子がリソソームに集まることが必要です。V-ATPaseは、これらの中で核となるタンパク質と直接結合し、そのタンパク質が安定にリソソームに留まるのを助けていることを明らかにしました。V-ATPaseというとプロトン輸送が注目されがちですが、興味深いことに、細胞内小器官の移動においても必須の役割を持っていたのです。さらに、破骨細胞のものと共通の構造を持つV-ATPaseが、がん細胞の転移能に関わることが示されつつあります。また、細胞障害性T細胞やインスリン分泌細胞においても、分泌リソソームと類似の仕組みが機能することが示唆されています。
V-ATPaseの阻害剤として良く知られているバフィロマイシンA1は、僅かな構造の違いは認識せず全てのV-ATPaseを阻害するため、細胞毒性が強く治療薬には適しません。骨代謝異常症の新規治療薬の開発には、破骨細胞に特有なV-ATPaseに特異的に作用する化合物が有望であると考えています。