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スポット薬学講座 No.2 構造生物薬学講座

X線は電子で散乱するため、結晶構造解析を行えば、結晶内の電子密度分布が分かります。電子密度分布が分かるということは、原子核を取り巻く電子雲が“見える”ということです。電子雲が見えれば、その中心付近に原子核がありますから、結局、X線結晶構造解析によって、結晶内の分子の立体構造が、原子レベルの解像度で“見える”ということになります。
長い間、創薬は偶然に頼っていましたが、ペニシリンの発見以降、近代的創薬の概念が確立されてきました。ペニシリンの立体構造を決定したホジキンがノーベル化学賞を受賞したことからも分かるように、構造情報を提供するX線結晶構造解析の役割は創薬において非常に重要です。ノイラミニダーゼとN–アセチルノイラミン酸の複合体の結晶構造を基にして、タミフル(オセルタミビル)が開発されました。このように、薬物の元になる化合物とその標的タンパク質の構造を基にして薬物設計を行う手法をStructure-Based Drug Design(SBDD)と言います。
多剤耐性菌や歯周病菌の多くは、糖の代わりにペプチドをエネルギー源として利用するグラム陰性糖非発酵性病原菌です。これらの細菌は、外膜と内膜の間にあるペリプラズムに、ペプチドからジペプチドを産生するジペプチジルアミノペプチダーゼ(DPP)群を有しています。内膜は、アミノ酸単体よりもジペプチドを選択的に透過し、DPP群の阻害により病原菌の生育・増殖が低下することから、DPP群は新規抗菌薬の標的酵素として有望であると考えられています。現在、X線結晶構造解析で明らかにしたDPP群の酵素とジペプチドの複合体(図1)を基にして、SBDDによる抗菌薬の開発を目指しています。
代表的な歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis は、歯周組織への為害作用があり歯周病に起因する口臭の原因物質のひとつとしても知られている酪酸を放出します。この細菌の酪酸合成経路に関与するスクシニルCoA還元酵素遺伝子の欠損株は、野生株に比べ、顕著に生育速度が低下します。したがって、その産物であるスクシニルCoA還元酵素(図2)を阻害できれば、新規作用機序の抗菌薬創出につながります。

図1 DPP群の酵素に結合したジペプチド  図2 スクシニルCoA還元酵素の六量体構造